ぽくぽく日記

毎日のくらしをぽくぽくとさんぽするように味わいたい。

手すりのプロ 後編

今週のお題「冬のスポーツ」

 こんばんは。
 今日、もう一度読みたいと思っていた本を古本で見つけて買いました。けっこうきれいな状態で100円でした。やった~!

 

「手すりのプロ」後編は、付き合っているころの夫とスケート場に行ったときのエピソードです。

 3年前の冬、スケートをしようという話になりました。
 せっかくスケート場が近くにあるんだから、行ってみようよ、と。
「わ~、いいね、すてきー! 助さん(夫の名前)は、スケートしたことあるの?」
「ううん、ないの~。どんな感じかなぁ? たのしみー!」
 スケート未経験の夫と、経験があるものの行くたびに初期化されるわたし。大丈夫だろうかとすこし心配になりましたが、今度はリンクの中心に放り出されることはないし、なんとかなるだろうと楽観的でした。

 当日の朝は、ウインナーのせラピュタパンを食べて力をつけました。ラピュタパンとは、『天空の城ラピュタ』に出てくる目玉焼きのせトーストをまねしたパンです。それにウインナーものせて、食べごたえ十分です。

 スケート場に到着、くつをはきかえて準備体操をしたあと、いざリンクへ向かいます。夫は、はじめてはくスケート靴にすこし不安げな様子です。
 リンクの入り口まで来ると、なにやら足が重くて進まなくなりました。
「ちょっとーーー! 助さん、わたしの足ふんでるでしょー!」
「ふんでないよ! おれ、ここよ」
 夫はすこしはなれたところにいました。冷静に足元を見てみると、リンクサイド一面に敷かれている厚手の黒いマットのすき間にスケート靴がはさまっているだけでした。
「なんだ…」
「ぬれぎぬよ~! ひどいー」

 リンクに出る前からさわがしいわたしたちを見かねたのか、小学1年生くらいの女の子がやってきて言いました。
「あの~、すべりかた教えましょうかー?」
「え、いいの? よろしくおねがいします!」
「はい、まず、足をトントントンってして、それからそろえてスーってすべるんです。ひざはちょっと曲げます。ほら、こうやって、トントントン・スー(やってみせてくれた)」
「ほうほう、なるほどー! こんな感じ?」
「そうそう、そんなかんじ」
 なんてやさしい子…! わたしたちは女の子にお礼を言って、さっそく練習しました。

 トントントン・スーは、保育園のスケート教室でも聞いたな。これはスケートの基本なんだな。
 はやくスイスイとすべりたい気持ちをおさえて、トントントン・スーをくり返しました。

 前をすべっている夫に目をやると、なんだか変なフォームですべっています。スケートボードで助走をつけるときのような動きです。追いつくと、得意げに教えてくれました。
「片足を軸にして、片足だけですべって、すべる感覚をつかんでいるんだ。どう? おれが考えたんだ!」
 せっかくさっきいいことを教わったのに、はやくも我流ですべっている…!
 あっけにとられていると、夫はまた、独自のフォームで進んでいきました。しばらく行ったところで、案の定ダイナミックにしりもちをつき、近くを通りかかったスケート上手なおじさまに救出されていました。中折れ帽をかぶり、ダンディな方です。「『肩に力入ってない~? リラックス、リラックスー』って教えてくれたよ~」。あとで夫が話していました。

「ちょっとあつくなってきたから、休憩してるね」
 しばらくすべったあと、夫は言いました。「うん、わかったー」とそのまますべっていると、「いおちゃん、いおちゃん!」とあせって呼ぶ声がしました。
「ええー、どうしたのー?」
 どこかいたいんだろうか。大丈夫かな。いそいでリンクから上がりたいところですが、手すりのプロですので、ちまちまとしか進めません。
 ようやく夫のところに着いて、「どうしたの?」とたずねると、夫はジャンパーをぬいで背中を向けました。
「ほら、見て。湯気が出てる…!」
 夫は暑がりで、汗っかきです。背中にかいた大量の汗のためか、夫の背中から湯気がもうもうと出ていたのです。
 まわりの風景と夫の湯気のコントラストが衝撃的で、リンクサイドで長々と笑いころげました。
 その日のお昼ごはんは山盛りのうどんを食べて、ゴーゴーと昼寝をしました。

 

 冬のスポーツは上手だったらもっとたのしいだろうけど、下手でも下手なりにたのしいです。
 まだやったことのないスキーやスノーボードも、やってみたいなと思いはじめています。